(元)ホームレスの国際協力バカ大学生の毎日

Table For Two University Association代表。桜木花道に憧れた少年は5年経って途上国に給食を届ける大学生になりました。ずっとこどっこいの私が送るどったんばったんの日常をお送りします。

【事故】大学1年生がマレーシアで土砂崩れに呑まれた話

 

11月の雨が窓に当たるのを見ながら、私はぼんやりとあの日のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

大学一年生の春、なんとなく顔を出した学生団体合同説明会の会場で元気に話す彼女に出会った。

よく通る綺麗な声をした彼女は、海外ボランティアの参加者を集めていた。

マレーシアの魅力を話す彼女の姿に惹かれ、私はマレーシアワークキャンプへの申し込みを決めた。

 

 

 

バイトで参加費を稼ぎ、出国したのは2017年の夏。

猛暑から逃げるようにマレーシアのボルネオ島へ旅立った。

 

 

初めて会う人達と行くキャンプに若干の緊張もあったが、楽しみの方が大きかった。

プログラムは日本人とマレーシア人の青年とで行われる児童養護施設へのワークキャンプだった。

 

 

このプログラムの中には2日間のホームステイがあった。

 

 

 

ホームステイはキャンパー同士が仲良くなってきた頃に行われ、日本とは一味違う生活が体験できるとともに、ホストファミリーと深いコミュニケーションが楽しめる。

 

 

 

私達も何人かの班に別れ、それぞれのホストファミリーのもとへ向かった。

 

 

私のホストファミリーは親戚と同じ敷地に住んでいて、日中は誰がどの子供なのかわからないくらい人の出入りが激しい

(マレーシアの田舎ではよくあることだそうだ。)

 

 

私達のホストマザーは料理が上手で、とっても優しい人だった。

 

子供達が駆け回るのを温かい目で見守り、私達の拙い英語にも耳を傾けてくれた。

晩御飯をみんなで囲み、小さな電灯の下で丸くなった。

 

 

とても美味しいご飯だった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、私達は教会に行った後、山の上のレジャー施設に向かった。

その日のスケジュールは全てマザーがセッティングしてくれた。

 

 

 

移動は小さなバンだった。

 

明らかに定員オーバーの13人を乗せバンは教会を背にして山を登っていく。

ホストマザーは助手席でナビをしていた。私は1番後ろの席に座っていた。

 

 

 

途中、少しずつ雨が降り出した。

 

 

だんだん強くなってきたが、車を止めて休むところもないのでそのまま目的地まで向かうことになった。

レジャー施設といっても小さなコンクリートの建物が1つあるだけなのだが、そこへ到着すればとりあえずは落ち着く。

スコールだから雨もすぐ止むだろうと思っていた。

 

 

 

高くから降る雨は勢いよく地面にあたり、雫を光らせていた。

 

 

 

 

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レジャー施設に向けて走る車



 

 

 

 

 

 

 

だんだんと山道を登っていくと、いよいよコンクリートではなく土の道になった。

少々の悪路だがドライバーも慣れている人だったので安心していた。

 

 

 

 

そして私達は1本の川に差し掛かった。

実はその川は上流からの土砂崩れによって一時的に発生したものだった。

 

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雨が止んだ後に撮った写真である

 

 

運転手はアクセルを踏んだ。

車は川にザブンと入った後のろのろと進んだ。

 

私達はなんだかワクワクしていた。

水位はまだタイヤの半分ほどだったし、なんだかその揺れと緊張感はテーマパークのアトラクションのようだった

 

 

 

しかし川の中盤に差しかかろうとした時、車は止まった。

 

運転手は

「大丈夫大丈夫」

と言いながら、エンジンかけようと何度か鍵を回した

私達はまだワクワクしていた。

 

 

 

 

なかなかエンジンはかからない。

運転手が少し顔を曇らせた。

 

私達はそこで初めて怖くなった。

水位はどんどん上がっていく。

川の流れに対して横向きの車の窓にはどんどん水面が近づいてきた

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車内から撮影した写真

 

 

その水面が窓に触れようとした時、運転手が

「逃げろ!!!!」

と大きな声で言った。

 

 

 

 

2列目の座席にいた友達が何人か降りた。

 

水面は腰より高く迫り、勢いに押され下流に流されていく友人を私は後部座席から見ていた。

 

 

何が何だかわからなくなってきた。

車も川の力に負けて、徐々に傾いてきている。

 

 

気づけば車の中にはともう1人の日本人の友達小さなホストシスターだけだった。

 

 

私は左側の扉から出た瞬間、その流れに負けた。

もう水位は腰よりも高く、私はあっという間に流された。

 

 

 

すぐさまバスのナンバープレートの近くのパイプをつかんだ。

川の流れを受けながら、必死にそのパイプを掴み、顔を水面から上げた

 

 

 

強い雨は槍のように降り注ぎ、目の前の景色さえよく見えなかった。

メガネと靴が流された

 

 

「助けて!!!!!!」

と叫んだ。

何度も叫んだ。

 

 

走馬灯なんて見えなかった。

 

 

 

叫んだところで、あっと驚く脱出劇も思い浮かばない。

助けに来てくれるヒーローもいない。

 

 

 

私は少し冷静を取り戻し、近くの枝を見た。

 

 

跳べるかどうかを考える時間はなかった。

 

バスの後ろににじり寄り、枝めがけて水底を蹴った

 

 

 

 

落ちてくる雫は私達をあざ笑うかのように水面にはねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助手席に乗っていたホストマザーを次に見たのは岸の上だった。

 

内出血をしているらしく、左脇腹を抑えながら苦しい顔をしていた。

 

 

ホストマザー、シスター、私、もう1人のキャンパーだけがレジャー施設とは反対側の岸。

 

流されていった他の子達は下流で助けられ、対岸にいた。

 

 

 

マザーを雨の当たらない場所に運んだ。

とっさに取り出したキャンプのしおりに書いてある携帯電話は繋がらない

 

 

 

「何十万円かかってもいい。頼むから繋がってくれ。」

 

その願いは天に届かず、私達はどこまでも諦め掛けていた。

そこで、対岸にリーダーらしき姿が見えた。

 

 

 

メガネが流された私だったが、その声は確かにあの時の説明会で聞いた声と同じだとわかった。

雨の中でも、よく通る綺麗なだった。

 

彼女に救急車を呼ぶように頼み、ホストマザーの元へ戻った。

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ホストマザーを休ませていた場所



 

ホストマザーの目はだんだん力が弱まっていき、

唇は青ざめていった。

 

 

このままではいけないと思った私は必死に彼女を起こそうとした

意識をはっきりさせようと声をかけた。

 

 

ホストシスターの小さな手が、それを止めた。

「ママはゆっくり休んでいるから、無理に起こさないで」

そう言っている目だった。

 

 

 

私は、呼びかけるのをやめてしまった。

肩に置いた手を弱々しくひっこめた。

 

ただただシスターに

「大丈夫、ママは助かるから」

と繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

搬送先の病院で、彼女の死亡が確認された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、果てしなく暗い闇の中に堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本に帰ってから、私は防災士救急法救急員の資格を取った。

その年の冬にはTable For Two University Associationという学生団体の代表になった。

 

 

 

 

 

今でも、あの時何をすれば良かったのか分からない。

 

 

私が殺したという罪悪感は消えない。

 

 

死ぬことより生き延びてしまったことの方が何倍も辛い。

 

 

 

 

思い出して泣いてしまうこともある。

私が思っている以上に、深く鮮明な傷になっていることは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも、私は生きている。

 

 

学生団体という小さな世界で、なんとか頑張れている。

途上国の子供達に給食を届ける活動をしている。

 

 

 

 

あんな悔しい思い、もうごめんだ。

 

 

つらいときに何度も思う。

 

どん底ならもう見てきた。

 

 

この先どんに辛いことが起ころうと、立ち上がれるような気がする。

情けない自分を、許せるようになる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば雨はもう止んで、雲間から薄い光が差していた。

11月の涼しい風が、窓の外を走っていた。

 

 

 

 

 

河内陽太郎

 

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